AI時代の発信幻想 #04
成功者を見るほど、記事が書けなくなる夜がある
SNSを開くと、成功した人の話が流れてくる。
「3か月で収益化できました」
「月50万円を達成しました」
「30記事で結果が出ました」
最初の頃、私はそういう投稿を見るのが嫌いではなかった。
むしろ、
「すごいな」
「自分も頑張れば、いつかこうなれるのかな」
と思っていた。
成功した人の話は、自分を動かしてくれる刺激だった。
ところが、ブログを続けているうちに、少しずつ見え方が変わってきた。
同じ成功談を見ても、以前のように素直に「すごい」と思えない夜がある。
「自分は何をやっているんだろう」
そんな気持ちになることがあった。
私は22歳から建築の仕事をしてきた。
現場に出て、職人さんと仕事をして、お客さんと話をして、見積もりを作り、会社を経営してきた。
35年以上、この世界で仕事をしている。
だから建築についてなら、自分なりの判断ができる。
現場で問題が起きても、これまでの経験から考えられることがある。
お客さんとの話し方も、仕事の段取りも、会社を続けていくことも、自分なりに積み重ねてきたものがある。
ところが、60歳を前にブログを始めた瞬間、私は初心者になった。
WordPressもよく分からない。
SEOも分からない。
Search Consoleも知らない。
記事を書けば検索に出ると思っていた。
でも、そう簡単ではなかった。
記事を書いても読まれない。
検索に出てこない。
表示回数がほとんど増えない。
クリックされない。
分からないことがあればAIに相談した。
少し直してみる。
また記事を書く。
数字を見る。
思ったようにいかない。
そんなことを繰り返していた。
そんなときにSNSを開くと、
「ブログ開始3か月で収益化」
という投稿が目に入る。
また別の日には、
「30記事で月○万円」
という話が流れてくる。
自分も記事を書いている。
自分もAIを使っている。
自分なりに勉強している。
それなのに、自分の数字とはまったく違う。
すると、頭の中で比較が始まる。
「自分のやり方が間違っているのではないか」
「もっと早く記事を書かなければいけないのではないか」
「使っているAIが違うのか」
「SEOのやり方が悪いのか」
「そもそも自分には向いていないのではないか」
一つの成功談を見ただけなのに、いくつも不安が出てくる。
そして気づくと、記事を書いていた時間より、成功者の情報を見ている時間の方が長くなっていた。
これは少しおかしい。
記事を書きたいから情報を探していたはずなのに、情報を探すほど記事が書けなくなっていた。
成功した人のやり方を知りたい。
もっと良い方法があるのではないか。
もっと効率のいい方法があるのではないか。
そう思って調べる。
でも、調べれば調べるほど、違う答えが出てくる。
「毎日記事を書いた方がいい」
という人もいる。
「記事数より質だ」
という人もいる。
「SEOが大事だ」
という人もいる。
「これからはSNSだ」
という人もいる。
「AIを使えばもっと速くできる」
という話もある。
どれも間違っているとは思わない。
その人が実際に経験して、結果を出した方法なのだと思う。
でも、全部を自分に当てはめようとすると、何をすればいいのか分からなくなる。
そして私は、あるとき建築の仕事のことを考えた。
22歳でこの世界に入った頃の私は、何も知らなかった。
今の自分と比べれば、できないことばかりだった。
現場の段取りも分からない。
職人さんの仕事も分からない。
材料のことも分からない。
見積もりのことも分からない。
お客さんとの話し方だって、最初からできたわけではない。
失敗した。
怒られた。
人に教えてもらった。
現場で覚えた。
一つ覚えて、また失敗した。
それを35年以上繰り返して、今がある。
もし22歳の自分が、35年以上経験した今の自分を見て、
「どうして自分にはできないんだ」
と落ち込んでいたら、おかしな話だ。
経験した時間が違う。
失敗した数も違う。
積み重ねたものも違う。
それなのにブログでは、私はそれと同じことをしていた。
ブログを始めて数か月の自分と、何年も続けて結果を出している人を比べていた。
その人が結果を出すまでに、何を失敗したのかも知らない。
何本の記事を書いたのかも分からない。
どれだけ勉強したのかも分からない。
もしかすると、その人にも誰にも読まれなかった時期があったのかもしれない。
私は「結果」だけを見て、自分の「途中」と比べていた。
それでは苦しくなるのも当然だった。
成功した人が悪いわけではない。
成功談が悪いわけでもない。
そこから学べることはたくさんある。
私も今後、参考にすると思う。
問題だったのは、成功した人の数字を、自分の現在地を測る物差しにしてしまったことだった。
建築の現場では、他の人のスピードだけを見て仕事をすることはない。
現場には現場の条件がある。
建物が違う。
お客さんが違う。
予算が違う。
職人さんが違う。
工事の内容が違う。
だから、目の前の現場を見て判断する。
ブログも、本当は同じなのかもしれない。
人によって経験が違う。
使える時間も違う。
書いているテーマも違う。
目指しているものも違う。
それなのにネットの世界では、数字だけが同じ画面に並ぶ。
フォロワー。
PV。
クリック数。
検索順位。
収益。
数字は分かりやすい。
だから比べやすい。
そして、比べやすいから苦しくなる。
AI時代になって、その速度はさらに上がったように感じる。
「これを使えば速く書ける」
「この方法なら効率化できる」
「もっと早く結果を出せる」
そんな情報が次々に流れてくる。
私も新しいものを見れば気になる。
試してみたくなる。
今でもそうだ。
でも最近は、一度考えるようになった。
「これは今の自分に本当に必要なのか」
成功者がやっているからではない。
流行っているからでもない。
今、自分がやろうとしていることに必要なのか。
そこを見るようにしたいと思っている。
私はブログで成功した人間ではない。
まだ途中にいる。
分からないことも多い。
記事を書いても、思ったような結果が出ないこともある。
それでも、始めた頃と比べれば変わった。
WordPressを触れるようになった。
Search Consoleを見るようになった。
検索から人が来るということも少しずつ分かってきた。
AIに相談しながら、自分の考えを文章にすることもできるようになった。
何より、60歳を前にして、知らなかった世界に入った。
それだけでも、始める前の自分とは違う。
35年以上続けてきた建築の仕事だって、一日で今の場所まで来たわけではない。
ブログだけ、数か月で答えを出そうとする必要はないのだと思う。
誰かが3か月で結果を出したなら、それは素晴らしいことだ。
誰かが30記事で収益を出したなら、それもすごい。
でも、それはその人の道だ。
私は私の道を進めばいい。
昨日より一つ分かることが増えた。
昨日より一つ記事を書けた。
昨日より一つ失敗の理由が分かった。
それでいい。
成功者を見て記事が書けなくなる夜があったら、パソコンの画面から少し目を離して、自分が始めた頃を思い出してみようと思う。
誰かと比べるのではなく、
始める前の自分と、今の自分を比べる。
そうすれば、ほんの少しでも前に進んでいることに気づけるかもしれない。
私はまだ成功者ではない。
だから、成功の方法を書くことはできない。
でも、成功するかどうか分からない途中で、何を考え、何に迷い、それでもどう進んでいるのかなら書くことができる。
それが今の私のブログなのだと思う。
今日もまた、誰かの成功談が流れてくる。
たぶん私は見る。
「すごいな」と思う。
参考になることがあれば学ぶ。
でも、そこで自分の手を止めない。
誰かのゴールを見ながら、自分のスタート地点を責めるのは、もうやめようと思う。
私は、私の速度で進めばいい。
35年以上かけて今の仕事を続けてきたように。
ブログも、まだ始まったばかりなのだから。
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